
スプートニクの旅は2017年の冬に始まった。遠く北欧から、長年仕事をした友が日本にやってきた。まったくの偶然で、
僕と彼は、同じタイミングで前職の仕事を辞め、なにか自分で新しいことを始めようとしていた。お互いにまだその準備期間中だったために、ぽっかり空いた少しだけ余裕のある冬。僕らはお互いの国を旅することにした。まずは僕の番だ。

僕らはレンタカーを借りて、とてもいい雪が降る北海道を廻った。互いに冬のビジネスをしていた僕らにとって、こんなにのんびりと廻る冬の時間は久しぶりだった。余市岳、羊蹄山、アンヌプリ、白井岳。毎日毎日、山に登り、滑り、酒を飲み、温泉に入り、たくさんの話をした。それしかやることがなかったのだ。

北海道の仲間を頼り、そこで出会った旅人を誘って、山に登った。上の彼は僕の友人ではない。山の案内を頼みに訪ねた知人の家に airbnb で宿泊していたスウェーデン人。名前は何と言ったっけな。お医者さんだった。「憧れのニセコに来てゲレンデ廻りだけ滑っているけど、あの正面の山はなんだ?」と言うから、そのまま羊蹄に拉致したのだ。

北海道には訪ねると喜んで山を共にしてくれる方々が大勢いる。ある晴れた信じられないぐらい絶好のコンディションの日、秀岳荘の栃内さんと稔くんが僕らを白井岳の誰もいない斜面に連れて行ってくれた。

僕の新しい旅路を開いてくれた友、Bjørn。最初に会ったのは5年前ぐらいだろうか。彼は僕が訪ねたブランドに入りたての、ノルウェーの北部担当の新人営業マンだった。日本が大好きで、その後そのブランドで日本の担当になり、毎年日本に来て一緒に旅をして、仕事も遊びもずっと共にした僕にとっての戦友。

Nothing is more precious than to share the mountain time with friends.
一緒に山を無言で登る。一緒に同じ景色を眺める。デスクでメールばっかりしてるより、そうやって何も喋らず一緒に山を歩いている方が、いい仕事が産まれる。

「なあ、また一緒に仕事をしてみないか?」
「偶然だね。オレも同じことを言おうと思ってたよ」
「また同じようなことをイチからの仕事だけれど...」
「偶然だね。ここにいちばんのディーラーがいるよ」

答えは、すべて、旅の中にある。そう信じて生きてきた。それでここまで来ちゃったんだから、もうこのまま進んじゃえばいいか。すげえ寒いけど、すげえ楽しいし。とくにいま、この頂上では、ナニも文句はないし。

「次は二週間後、ヨーロッパで」
「また新しいオレたちの旅の始まりだね」
2017年1月、独立して個人事業 sputnik (スプートニク) を立ち上げることになった。
自分が人生で実現したいことを数年ずっと考えていた。
これまで得た数多くの経験や縁を活かし、自身の責任で自由に好きなことを思う存分表現してみよう。
だから、少しずつささやかなことからだけれど、独力で始めてみよう。
sputnikとは、人類で始めて宇宙に飛び出した人工衛星の名前。ロシア語で「旅の道連れ "fellow traveller"」という原義だ。
かつてスプートニクが全世界に衝撃を与えその後の世界を変えたように、かつてスプートニクが世界で始めて宇宙で永遠の自由を獲得したように、山にまつわるあらゆる仲間をつないで、みんな自由な山の道連れにしちゃおう。
そんな意味を込めて、スプートニクは始まった。
すべての旅の始まりは、彼との白井岳だった。
hodaka